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あれっ、健康なキリリと締まった肉体は社会的礼儀?


「不道徳教育講座」(三島由紀夫著、角川文庫)


 以下は、掲題書からの一部抜粋。

  肉体のはかなさ

 今目前に並んでいるビルダー諸君も、はじめからこういう肉体では決してなく、同じような羨望からボディ・ビルをはじめて、それに成功したのです。私の場合は成功したとはいえないが、私なりに自信がついた。私は百パーセント、自分の筋肉の可能性を試してみたからである。


 私は、何が何でも、すべての人が、一流ボディ・ビルダー並みの体格をもつべきだとか、体育家のいう運動機能と柔軟性百パーセントの肉体をもつべきだとか、主張するつもりはない。自由自在にとんぼがえりの出来る肉体が、すべての男に必要なわけではない。しかし、精神的教養というものが、すべての男に必要である程度に、肉体的教養は必要であって、健康な、キリリと締まった肉体を持つことは、社会的礼儀だと考えている。世間は、精神的無教養をきわめた若者たちの暴力ばかりを心配しているが、支配層のインテリの肉体的無教養もずいぶんひどいものであります。
  
 いうまでもなく肉体ははかないもので、第一、今の世の中では、体だけでは一文にもならない。金になるのは何らかの形の知能です。おまけに知能のほうは、年をとるにつれて累積されてゆくが、体のほうは、三十代から衰退の一路を辿りはじめる。そうかといって、金にもなるしモチもいい知能だけを後生大事にしている男は、私には何だか卑しくみえる。一回きりの人生なのですから、はかないものをもう少し大事にして、磨き立てたっていいではないか。筋肉はよく目に見え、その隆々たる形はいかにも力強いが、それが人間の存在の中で一等はかないものを象徴しているというところに、私は人間の美しさを見ます。肉体に比べると、人間の精神的産物や事業や技術は、はるかに長保ちがする。しかし短い一生を、長保ちのするものだけに使う、というのは何だか卑しい感じがする。肉体を軽蔑することは、現世を軽蔑することである。


 男の肉体ははかないものである。一文にもならないし、社会的に無価値で、だれにもかえりみられず、孤独で、・・・・・・せいぜいボディ・ビルのコンテストへ出て、人に面白がられるぐらいのことしかできない。現代社会では、筋肉というものは哀れな、道化たものにすぎない。だからこそ、私は筋肉に精を出しているのであります。


<感想>
 一文にもならない、社会的に無価値で長保ちしない肉体に最期まで拘り続けた三島由紀夫。健康な、キリリと締まった肉体を持つことは、社会的礼儀だと考える三島にあやかりたい。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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by tsuruichi1024 | 2017-05-12 08:00 | 三島由紀夫 | Comments(0)