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あれっ、サンフランシスコ講和条約以降、沖縄に基地集中?


「憲法の涙」(井上達夫著、毎日新聞出版)


 以下は掲題書(第4章「愚行の権利・民主主義の冒険」)より。

 (その3)

 沖縄の問題

『 沖縄に基地が74%集中している。これは米軍専用基地の比率です。沖縄の基地負担をもう少し軽く見せたい人たちは、「米軍基地」概念を水増しして、米軍と自衛隊との共同利用基地を含めると沖縄は23%だと言う。それでも国土に対する沖縄の面積比はわずか0.6%ですから、土地面積に対する基地面積の比率でくらべると、沖縄の負担は本土の50倍になります。この現状を、地政学的ないし戦略的合理性があると、多くの人は信じているんじゃないでしょうか。
 しかし、これはまったく間違いです。沖縄に米軍基地が集中したのは、戦略的合理性の理由からではなくて、政治的都合からなんですよ。
 占領期には、米軍基地は日本全土にもっと拡散していたんです。ところが、サンフランシスコ講和条約で日本が主権を回復すると、本土のいろんな基地のところで住民の反対運動が起こります。そうすると、米軍としては基地保有の政治コストを軽減したい。ところで沖縄だけは、サンフランシスコ講和条約以降も。米国の施政権下にあった。だから基地を本土から沖縄に移転したんです。沖縄だったら、有無を言わさず押し付けられるから。
 で、沖縄に基地が集中した。戦略的にこれが合理的かというと、逆なんです。集中のリスクですね。74%の米軍専用基地が沖縄にある。もし核ミサイルが沖縄にぶち込まれると、在日米軍にとって戦略的にきわめて重要な自分たちの専用基地の大半が一挙に破壊されちゃうわけですよ。
 集中のリスクとは何か。それは、なぜインターネットが開発されたかを考えればわかるでしょう。インターネットは軍事情報技術として開発され、それが民生用に移転したわけ。
 従来の情報システムは、ハブ・アンド・スポーク・システムといって、中枢から末端の各地に情報を送り、末端の各地からまた中枢に情報を送るというやり方ですね。これだと、中枢をたたかれると、システムが全部崩壊してしまう。それでは非常に脆弱だということで、分散的な情報通信ネットワークをつくった。それがインターネットですね。
 それから考えると、沖縄に一極集中している、在日米軍基地というものが、いかに脆弱性をかかえているか、わかるでしょう。

 かりに、地理的接近性に意味があるというなら、中国やロシアのことも考え、福岡から新潟の日本海沿岸とか、青森、北海道とかにもっと基地がないとおかしい。
 こういうウソが流通しているということは、だれもそれを正そうとしない、要するに、それが本土住民にとって都合がいいからですね。なぜ沖縄がそうなのか、考えない。ただ、臭いものは沖縄にもっていけ、と。政治家も、そういう欺瞞のうえに乗っかっていたほうが、票が安泰だ。本土に基地を移そうなんて言ったら、政治的生命が危ないですよね。

 これだけの基地負担を負わされながら沖縄が得ている補助金は全国で9位にすぎず、沖縄はいまだに最貧県の一つです。
 さらに、経済的利益からいっても、米軍基地は沖縄経済の牽引車ではもはやない。米軍基地に経済的に依存している人が沖縄になお少なからずいることは確かですが、沖縄経済の基地経済への依存率は、復帰直後の15.5%が1996年には5.2%まで著しく低下しました。その後下げ止まりが続いていますが、日本経済全体の低迷による部分も大きいでしょう。最近の景気回復で依存率が4%台になったとも聞きます。いずれにせよ、この低いレベルにとどまり続けていることが重要です。
 もっと重要なのは、基地経済への既存が沖縄のもっとダイナミックな自律的経済発展をはばんでいるという自覚が庶民のあいだにも広まりつつあることです。
 一例を挙げると、私が参加した沖縄での基地見学ツアーのバスガイドさんがこんなことを言ってました。返還されたある米軍基地の跡地に、ショッピングモールなど一大商業地区ができた。基地時代の県民雇用数は150人くらいだったけど、今の商業地区の雇用は1万人を超えた、と。重要なのはこの経済的事実だけでなく、バスガイドさんのような普通の市民がそれを自覚しているということです。
 たしかに、沖縄内部にも、根強い特権層支配、少数の富裕層と多くの貧困層との経済格差、内なる民主主義の弱さ、地元メディアの寡占化と異論排除傾向など、さまざまな悪弊がある。それを指摘することは、沖縄が特権層・利益勢力の支配を掘り崩し、基地依存から脱却した自律的経済発展をさらに強力に推進するのを促すためにも必要です。本土の沖縄差別への批判が、沖縄の内なる差別・抑圧の現実を隠蔽する口実にされてはなりません。
 しかし。本土住民にとって、もっと重要なことは、沖縄内部の悪弊を指弾して、米軍基地という日米安保のコストを沖縄に集中転嫁している現実を合理化する口実にしてはならないということです。沖縄に甘えている本土住民が「沖縄よ、甘えるな」などと説教して自分の甘えを棚上げする権利はない。沖縄の膿は沖縄自身が出すべきです。同様に、本土住民は沖縄の欺瞞をあげつらう前に、自らの欺瞞の膿を出さなければなりません。 』


<感想>
 本土の住民として、サンフランシスコ講和条約以降の米軍基地の沖縄集中への歴史を思い、沖縄自身の経済発展のために何ができるかを考えてみたい。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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by tsuruichi1024 | 2017-06-26 08:00 | 井上達夫 | Comments(0)