「小説 君の名は。」(新海誠著、角川e文庫)


『 あとがき

 この小説を書こうとは、本当は思っていなかった。

 こんなことを言ってしまうと読者の方々に失礼かもしれないと思うけれど、『君の名は。』は、アニメーション映画という形がいちばん相応しいと思っていたからだ。


 小説と映画で物語上の大きな違いはないけれど、語り口にはすこし差がある。小説版は瀧と三葉の一人称、つまり二人の視点のみで描かれている。彼らが知らないことは語られないのだ。一方、映画はそもそもが三人称――つまりカメラが映し出す世界である。だから、瀧と三葉以外の人々も含めて文字通り俯瞰で語られるシーンも多くある。どちらも単体で十分に楽しんでいただけると思うのだけれど、このようにメディアの特性として必然的に相互補完的になっている。

 小説は一人で書いたものだけれど、映画はたくさんの人の手によって組み立てられる構造物である。『君の名は。』の脚本は、東宝(映画会社です)の『君の名は。』チームと数ヶ月にわたり打ち合わせを重ねて形にしていったものだ。プロデューサーの川村元気さんの意見はいつもキレッキレで、僕は時折チャラいなあと密かに思いつつも(重要なことも軽そうに言う人なのです)、常に川村さんに導いてもらっていたと思う。


 それから、映画の音楽を担当してくれたRADWIMPSの楽曲たち。小説ではもちろんBGMは流れないけれど、RADWIMPSの歌詞の世界に、この小説も大きな影響を受けている。映画『君の名は。』においては音楽が担う役割は特に大きいのだけれど、それが映画・小説それぞれでどう演出されているか、確かめていただければ嬉しい(そのためには映画も観ていただく必要がありますね。ぜひ観てください!)。

 最初にこの物語は「アニメーション映画という形がいちばん相応しいと思っていた」と書いたけれど、それは映画版が、先に挙げたような多くの方々の才能による華やかな結晶だからだ。個人の能力をはるかに超えた場所に、映画はあると思う。

 それでも、僕は最後には小説版を書いた。
 
 書きたいと、いつからか気持ちが変わった。

 その理由は、どこかに瀧や三葉のような少年少女がいるような気がしたからだ。この物語はもちろんファンタジーだけれど、でもどこかに、彼らと似たような経験、似たような想いを抱える人がいると思うのだ。大切な人や場所を失い、それでももがくのだと心に決めた人。未だ出逢えぬなにかに、いつか絶対に出逢うはずだと信じて手を伸ばし続けている人。そしてそういう想いは、映画の華やかさとは別の切実さで語られる必要があると感じているから、僕はこの本を書いたのだと思う。

 手にとってくださって、読んでくださって、本当にありがとうございました。

   2016年3月  新海誠 』


>>一人称の視点の小説と三人称の映画。
  一人で書く小説と大勢で作る映画。

  音楽は聞こえない小説と音楽の役割が大きい映画。
  切実さで語られる小説と華やかな映画。
  
  新海誠監督が書かざるを得なかった小説もとっても良かった。
  

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by tsuruichi1024 | 2017-01-22 08:00 | 君の名は | Comments(0)


「小説 君の名は。」(新海誠著、角川e文庫)


『 ほんの一メートルほど先に、彼女がいる。名前も知らない人なのに、彼女だと俺にはわかる。しかしお互いの電車はたんだんと離れていく。そして別の電車が俺たちの間に滑り込み、彼女の姿は見えなくなる。
 でも俺は、自分の願いをようやく知る。

 あとすこしだけでも、一緒にいたかった。

 もうすこしだけでも一緒にいたい。

 俺たちはかつて出逢ったことがある。いや、それは気のせいかもしれない。夢みたいな思い込みかもしれない。前世のような妄想かもしれない。それでも、俺は、俺たちは、もうすこしだけ一緒にいたかったのだ。あとすこしだけでも、一緒にいたいのだ。
 

 やっと逢えた。やっと出逢えた。このままじゃ泣き出してしまいそう、そう思ったところで、私は自分がもう泣いていることに気付く。私の涙を見て、彼が笑う。私も泣きながら笑う。予感をたっぷり溶かしこんだ春の空気を、思いきり吸い込む。

 そして俺たちは、同時に口を開く。

 いっせーのーでとタイミングをとりあう子どもみたいに、私たちは声をそろえる。

 --君の、名前は、と。 』


 このシーン、ウォーレン・ビューティー主演の『天国から来たチャンピオン Heaven Can Wait』のラストシーンを思い出す。

(出所:http://www.script-o-rama.com/movie_scripts/h/heaven-can-wait-script-transcript.html
 Beatty : Have we met ?
 Julie : No. I don't think so. No, I guess we haven't. I'm sorry.
 ・・・
 Julie : What's that?
 Beatty : They're just closing up the place. Here, give me your hand.
 It's all right. There's nothing to be afraid of.
 ・・・
 Julie : When you said "There's nothing to be afraid of," your voice sounded so familiar.
 Beatty : Well, like I said, I thought I knew you, too.
 ・・・
 Beatty : All of a sudden, I don't feel like going to a party, and I thought maybe if... I mean... You want to have a cup of coffee or something?
 Well, I guess not.

 Julie : You are the quarterback.
 Beatty : Yeah, how'd you know that ?
 Julie : Yes, I'd love to have a cup of coffee with you.


>>突然、電気が落ちる。そこで驚くジュリー・クリスティに対して言う。
 It's all right. There's nothing to be afraid of.
 これは、ファーンズワース演じるウォーレン・ビューティーが最後に言った言葉。
 彼だとわかった瞬間だ。

 (この映画で使われたデイヴ・グルーシンの曲を4大学大会の英語劇(ニール・サイモンの"God's Favorite")の幕間で使ったことも懐かしい。)


 なお、次のクイズ(http://www.funtrivia.com/en/Movies/Heaven-Can-Wait-16515.htmlの最後から2番目)もご参照。

『 ? : After the Super Bowl, what does the main character say to Julie Christie's character to make her realize who he is ?

Answer : "It's all right. There's nothing to be afraid of."

Just before Beatty's character is shot, he proposes to Julie Christie's character. When he realizes that he is about to be taken away, he tells her that someday someone else might come up to her, maybe even a football player, maybe even a quarterback, and she'd be able to look into his eyes and feel recognized. She expresses confusion, and he assures her, "It's all right. There's nothing to be afraid of." Those are the last words he speaks to her before being shot. 』


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by tsuruichi1024 | 2017-01-15 08:00 | 君の名は | Comments(0)


「小説 君の名は。」


 昨年、映画「君の名は。」を見た。
 興味を持ったので、「小説 君の名は。」の電子書籍を読んでみた。

 また、2017/1/8の「題名のない音楽会」(http://www.tv-asahi.co.jp/daimei_2015/contents/Broadcast/bn-cur/)に、新海誠監督が映画のテーマ曲に込められた思いを語っていた。

 「小説 君の名は。」(新海誠著、角川e文庫、H28/6/18発行。角川文庫「小説 君の名は。H28/6/25初版発行にもどついて制作)の解説で、川村元気さんが主題歌との関係について以下のように述べている。



『 解説  川村元気

 新海誠が僕に解説を頼んだ理由が分かった気がした。
 彼は「解説」して欲しかったのではない。この小説が生まれた経緯を、身内から「暴露」して欲しかったのだと、僕は理解した。

 2年前、新海誠と長編映画をつくることが決まった。
 その日の夜、僕は新海誠と有楽町のガード下にある安い居酒屋で酒を飲んでいた。
 ぼくはハイボールを、彼は生ビールを片手に語り合った。
 
 新海誠をまだ知らない人たちがかれの世界に触れ、驚いて欲しかった(ぼくが14年前『ほしのこえ』を観てぶったまげたように)。そして、新海作品を見続けてきた人たちには、あらためて新海誠という才能がなにを成し遂げたのかを目撃して欲しかった。
 加えて、新作は限りになく音楽的であって欲しいと、僕は言った(いつだって新海誠の作品は素晴らしい音楽とともにある)。好きなミュージシャンはいるのか? と訊ねた。すると彼はあるバンドの名前を挙げた。以前から親しくしているそのバンドのフロントマンに、僕は酔った勢いでメールを打った。

 「君の前前前世から、僕は君を探し始めたよ」

 それから半年後、RADWIMPSの野田洋次郎から主題歌『前前前世』のデモが届いた。

 すれちがうふたりの物語を、どこまでも大きな世界で描く。新海誠と野田洋次郎。
 ふたりは運命に導かれるように出会い、奇跡的なコラボレーションが生まれた(きっかけはガード下の居酒屋だったけど)。

 「今回、小説は書きません」
 そう宣言していた新海誠が、野田洋次郎の音楽によって書かされた。
 小説に音は鳴らせない。でもRADWIMPSの曲がここから聴こえてくる。
 運命的な出会いがもたらした、希有な小説だと思う。
 
 本作のなかで瀧は自問している。
 人は不思議な生き物だ。大切なことを忘れ、どうでもいいことばかり覚えている。メモリーカードのように、必要なものを残し、不必要なものだけを消すようにはできていない。それはなぜだろう、と考え続けてきた。
 でもこの小説を読んで、少しだけ、わかった気がする。
 ひとは大切なことを忘れていく。
 けれども、そこに抗(あらが)おうともがくことで生を獲得するのだ。

(映画プロデューサー・小説家) 』


 有楽町のガード下から生まれた、映画と音楽の奇跡的なコラボレーション。
 世の傑作が、どこから誕生するか分からないところがまた面白い。


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by tsuruichi1024 | 2017-01-09 08:00 | 君の名は | Comments(0)