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あれっ、インサイダー情報はより幅広い管理が必要?


「生涯投資家」 (村上世彰著、文藝春秋)


 以下は掲題書(第9章「失意からの十年」)からの一部抜粋。(その5)


『 私のファンドマネージャーとしての人生は、2006年にインサイダー容疑で逮捕された時に幕を閉じた。「儲ける」という行為を否定されてしまっため、投資に限らず、何の事業もできない状態となってしまった。いったいこの先、毎日何をしていければいいのか、日本のためにこれから何ができるのか、と失意の中で考えてきた。

 私がどんな容疑で逮捕され、裁判で有罪となったのか、当時でさえ正確に理解していた人は少ないだろう。「あれだけ目立ったあげくに捕まったのだから、たくさん悪いことをしてお金を貯め込んだせいに違いない」と思った人がほとんどではなかったか。

 ライブドアの堀江貴文氏が私に言った「ニッポン放送の株式を5%以上買いたい」という趣旨の言葉がインサイダー情報に該当するとされ、その情報を元に株の取り引きを行って利益を上げたという容疑で、私は逮捕されたのだった。しかし実現可能性がほとんどないような情報が「インサイダー情報」に当たるのだろうか。さらに、言葉のイメージの問題ではあるが、私は会社の内部からの情報を得たわけではないので、「インサイダー取引を行った」といわれることには正直、非常に違和感がある。

 ファンドマネージャーだった当時の私は、投資先の経営者や関係者と話す際に、自分自身も社員にも「インサイダー情報は絶対もらわないように」と十分すぎるほど注意を払っていた。万が一、相手が何か口を滑らせてしまったら即座に取引を止め、その情報を航海するように請求し、公開されるのを待ってから取引を再開した。ルールを守ることについては、人の何倍も気を使ってきた。

 青の時の堀江氏の話は、ニッポン放送内部の未公開情報ではないし、当時のライブドアの財務状況を考えれば実現には程遠かった。いわば彼の「夢」や「願望」にすぎず、インサイダー情報に該当するなど予想もしなかった。該当すると思っていたら、すぐに対応したはずだ。実際にその後、堀江氏が「外国人から株を買いたい」と具体的な依頼をした時点で、私は即座にニッポン放送の取引を停止するよう社内に銘じている。

 だから私は裁判で、「誰がどこかの会社の株を5%以上買いたいと言っているのを聞いたら、その誰かの経済状況や実現可能性に関わらず、インサイダー情報とみなれるのか?」という点を争った。しかし5年もかかって確定した判決は、「公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しないと解するのが相当である」というもの。

 誰かが大量に株を買えば、対象企業の株価に影響を及ぼす可能性がある。だからこうした情報も、インサイダー情報と同じ罰則の対象にするという位置づけだ。

 遠い将来から振り返ってみた時、私だけ適用された判例になるのではないか、単なる「村上バッシング」だったのではないか、とさえ疑ってしまう。「あの時いったい何が起きていたのか」といまだに思う。十年たった今でも、何度考えてみても、違和感をぬぐえずにいるのだ。』


<感想>
 2011/6/6の最高裁判決は添付HPの通り。
 
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/389/081389_hanrei.pdf
 また、解説としては添付HPが分かり易い。
 
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/law-research/securities/11061601securities.pdf

 実行者に、実現の「意思」と「能力」が(わずかでも)認められれば、「公開
買付け等を行うことについての決定」ありと判断される可能性がある。コンプライアンス実務においては、法人関係情報等として、前倒した幅広い管理運営が求められよう。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
発行者HPはこちら
http://tsuru1.blog.fc2.com/
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by tsuruichi1024 | 2017-07-24 08:00 | 村上世彰 | Comments(0)