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あれっ、大塚家具の特定引受人(ヤマダ電機)宛て第三者割当増資?


【 大塚家具:特定引受人(ヤマダ電機)宛て第三者割当増資 】


 2019/12/12、大塚家具(8186)は、ヤマダ電機(9831)宛て、第三者割当増資等を発表した。
http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-31/h31-12-12_2.pdf

 本件は、支配株主の異動を伴う募集株式の発行に該当する。ここでは、「会社法改正法案 資金調達に関する規律の概要」(森・濱田松本法律事務所)から、会社法第206条の2の「公開会社における募集株式の割当て等の特則」等の内容を考えてみたい。
http://www.mhmjapan.com/content/files/00018344/20160609-014114.pdf


1.会社支配権の移転を生じる大規模な第三者割当による新株発行
 会社支配権の所在は経営者ではなく株主が決定するべきであって、会社支配権の移転を生じるような大規模な第三者割当による新株発行は株主総会による承認を必要とすべきではないかという批判が以前からなされていた

⇒ 会社法改正案においては、公開会社における募集株式の割当て等の結果、引受人(その子会社等を含む)が総株主の議決権の過半数を有することとなる場合には、以下の手続を要することとされた

(i) 株主に対して、払込期日の2週間前までに、引受人関連事項(氏名・住所・議決権等)について事前の通知又は公告を行うこと(改正後会社法第206条の2第1項~第3項)

(ii) 上記(i)の通知又は公告の日から2週間以内に総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が反対通知をした場合は、払込期日等の前日までに株主総会の決議(普通決議)により、当該引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の総数引受契約の承認を得ること(改正後会社法第206条の2第4項~第5項)


2.反対通知により株主総会決議が必要となった場合の対応
公開会社のスケジュールについては、会社法及び金融商品取引法上の最短期間である取締役会決議日から中14日又は中15日後に払込期日を設定することが実務上多い

⇒ しかし、仮に反対通知がなされた場合に、特に上場会社においては、払込期日の前日までに株主総会決議による引受人に対する募集株式の割当て又は特定引受人との間の総数引受契約の承認を得ることは現実的に不可能

⇒ 手続をやり直さなければならなくなるリスクを回避するため、原則として、
(i)予め株主総会決議による承認を任意に得た上で手続を進めるか、又は
(ii)10分の1以上の反対通知があった場合に株主総会を開催できるよう、余裕をもったスケジュールで払込期日を設定することになる

< 本件の場合 >
払込期間:2019/12/30〜2020/1/10(注)
(注)ヤマダ電機は、会社法第206条の2第1項に規定する特定引受人に該当します。なお、仮に会社法第206条の2第4項に規定するところに従い、当社の総株主の議決権の10分の1以上を有する株主から、当社に対して本新株式発行に反対する旨の通知がなされた場合には、当社は株主総会決議によるヤマダ電機と当社との間の総数引受契約(会社法第205条第1項)の承認が必要となり、その場合、2020年2月1日から2020年2月末日までを払込期間とします。


3.適用除外規定における必要性・緊急性の判断基準
総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が反対通知をした場合であっても、「公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合において、当該公開会社の事業の継続のため緊急の必要があるとき」は、株主総会決議による承認を得ずに募集株式の発行等を行うことが可能(改正後会社法206条の2第4項但書)。

⇒ かかる適用除外規定の要件については、会社法制部会会議において、「当該要件における 必要性及び緊急性については、会社がそれがあると主張している資金調達計画を前提にして、それに照らすと資金調達が必要であるというのではなく、本当に会社の存立がこの資金調達をしないと阻まれてしまい、そのときに株主総会決議を採っていては間に合わないという形での必要性及び緊急性をいう」旨の意見も出されているように、適用場面は相当限定的に解される可能性がある

< 本件の場合 >
現状では「緊急の必要があるとき」には該当しない


4.そもそも有利発行に該当しないか
会社法上、公開会社が募集株式の発行等を行う場合、授権株式数の範囲内であれば、払込金額が引受人に「特に有利な金額」である場合(有利発行)に該当しない限り、取締役会決議により募集事項を定めることができる

⇒ 有利発行の場合は株主総会の特別決議が必要

< 本件の場合 > 
発行価額:145.8円=取締役会決議日の直前営業日(2019/12/11)の終値162円の10%ディスカウント

< 取締役会の判断 >
当該発行価額は、取締役会決議の直前日の価額に0.9を乗じた額以上の価額であり、日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」にも準拠したものであること
⇒ 当社としては、145.8円という払込価額は、特に有利な金額には該当しないものと判断している

< 監査役の判断 >
本新株式発行の決定に関する取締役会に出席した監査役3名全員から、上記発行価額は、10%のディスカウントとなるものの
1)本新株式発行による新株式による調達を行わなければ2020年2月には当社は資金繰りについての懸念が生じる可能性があるという当社の財政状態、経営成績又はキャッシュ・フローの状況に鑑みると、本新株式発行は直近の資金繰りに対する懸念を払しょくさせるものである
2)本新株式発行による資金の確保及びその結果として当社がヤマダ電機の上場子会社となることが当社の財務基盤の安定と信用力強化にも資すること
3)本日公表した「業績予想の修正に関するお知らせ」において「売上高が当初予想値を下回り、営業損失、経常損失及び当期純損失を計上する見込みであるものの、具体的な予想値については算定が困難であり、各要因を精査中であることから、業績予想を未定」としており、2019/12/11の株価には当該情報が反映されていないものの、当社の株価形成に有利な情報ではないこと
4)その発行価額の決定方法は日本証券業協会の「第三者割当増資の取扱いに関する指針」にも準拠していること
⇒ 特に有利な金額には該当せず適法である


5.大塚家具の株価終値推移
12/11 162円
12/12 212円(ストップ高)
12/13 292円(同上)


<感想>
 本件は、新株予約権を含めた、特定引受人のヤマダ電機宛て、第三者割当増資。
 ヤマダ電機は、議決権の過半数を有する、支配株主の異動を伴う募集株式の発行となるが、両社のシナジー効果も期待できるため、議決権を10分の1以上有する株主が反対することはないものと思われる。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
発行者HPはこちら http://tsuru1.blog.fc2.com/
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by tsuruichi1024 | 2019-12-16 08:00 | M&A | Comments(0)