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【 直木賞・佐藤正午『月の満ち欠け』を担当して 】

 2017/10/21、直木賞・『月の満ち欠け』の岩波書店編集者・坂本政謙さん(大学時代からの友人)と装丁家・桂川潤さんのトークイベント(大雨にも関わらず大盛況!)に参加した。
 
https://www.iwanami.co.jp/news/n21722.html


1.装丁

(1)佐藤正午本の装丁(装丁家・桂川潤)
 (出所:『出版ニュース』2017年7月上旬号)

『登場人物を暗示する線画イラストをレイアウトした第一案は、版元・著者の双方から却下された。そう、装丁に要求されるのは内容の「説明」ではなく「予感」だったのだ。

編集者からは「ズバリ月で行きませんか」と提案されたが、これもベタな「説明」になりかねない。作中の重要な舞台となる東京駅に十六夜の月を組み合わせたり、ギリギリまで粘ったものの、内容と拮抗する衝撃の「予感」が生まれない。

悶々としていた締め切り直前、数年前に求めた宝珠光寿さんの版画が頭に浮かんだ。「何もない空いっぱいに」という画題どおり、月はどこにもなく、空にまばらな雲以外見あたらない。ニードルで刻み込まれた線画の男女に不穏な空気が流れる。そのままでは書名すらレイアウトできない構図だが、画の周囲に黒の色面を置き、そこに原画にはない月を空いたらどうだろう。いや、それは禁じ手だ。オリジナルの作品世界をデザイナーが改変するなど許されるはずがない。

激しい葛藤に苛まれつつ、ラフを見るほどに「この案以外はない」と思えてくる。“ダメ元”と腹をくくって宝珠さんに装画使用の可否を伺ったら、何と「考えもしなかった構図」と快諾をいただけた。著者、編集者も「この本のために描き下ろした画のよう」と文句なしで装丁が決定。九回二死からの逆転ホームランというべきか。』

(ご参考:
https://twitter.com/mitsuhisa_hosu/status/887636492692078592http://www.asahi-net.or.jp/~pd4j-ktrg/bookindx.html


⇒ 第一案(説明的な2つの案)が却下され、駅をバックの装丁に決まりかけた最終段階で、「この案以外はない」と宝珠光寿さんの装画使用のご快諾(イベントでご発言も)。装丁が出来上がるドラマを感じる


(2)夏目漱石の「心」

 桂川さんが冒頭で、夏目漱石が(自費出版での)装丁を自ら手掛けた「心」(大正3年(1914)4月20日~8月11日まで朝日新聞に連載)のお話をされていた。

(a)『心』自序
 http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/4688_9466.html

『 装幀の事は今迄専門家にばかり依頼してゐたのだが、今度はふとした動機から自分で遣つて見る気になつて、箱、表紙、見返し、扉及び奥附の模様及び題字、朱印、検印ともに、悉〔ことごと〕く自分で考案して自分で描いた。
 木版の刻は伊上凡骨氏を煩はした。夫から校正には岩波茂雄君の手を借りた。両君の好意を感謝する。

 大正三年九月 』


(b)祖父江慎ブックデザイン『心』
 https://www.iwanami.co.jp/book/b263835.html

『たとえば,函や表紙,背の書名.漱石が自ら装丁した初版では,「心」「こゝろ」など,いろいろな表記や字体が入り混じっています.その“心”揺れる『心』であることを生かし,祖父江さんはプランを作ってこられました.』


⇒ 漱石自身の手による「心」「こゝろ」の装丁。装丁の重みを改めて感じる


2.「月の満ち欠け」の帯

(1)背表紙

 『君にちかふ。』


(2)表紙

『 欠けていた月が満ちるとき、
      喪われた愛が甦る。

              新たな代表作の誕生は、
      円熟の境に達した20年ぶりの書き下ろし。
さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

     あなたを/の 愛している人は、誰ですか?』


(3)裏表紙

『この娘が
  いまは亡き我が子?
   いまは亡き妻?
    いまは亡き恋人?

  そうでないなら、
    はたしてこの子は
      何者なのか?

自分が命を落とすような
ことがあったら、
もういちど生まれ変わる。

月のように。
いちど欠けた月が
もういちど満ちるようにーー

そして、
あなたの前に現れる。』


⇒ 編集者坂本さんの熱き想いを改めて感じる
 (ご参照:
https://ameblo.jp/tsuruichi1024/entry-12300306071.html


<感想>

 この五十数年、恥ずかしながら、「装丁」を考えてみたことがなかった。

 今回の「編集者×装丁家」のトークイベントで、編集者坂本さんが

 (1)いかに装丁を大切に考えているか
 (2)いかに装丁家桂川さんに全幅の信頼を寄せているか

 等、作品が生まれるプロセスを知ることができて、有意義だった。

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by tsuruichi1024 | 2017-10-23 08:00 | 月の満ち欠け | Comments(0)

あれっ、編集者の仕事?


【 編集者の仕事 】


 以下は、添付インタビュー記事からの一部抜粋。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170806-00003623-bunshun-soci

『 「手持ちの札を使うしかないんです」

 正午さんは会社勤めをした経験がないんですね。『月の満ち欠け』全体の物語がある意味で荒唐無稽なものだとすると、それを支える細部はリアルなものじゃないと。細部に嘘があれば、全体が嘘になってしまう。「できるだけ細かいところに嘘がないように、注意しましょう」と正午さんとお話をして。そうすると手持ちの札を使うしかないんです。


 週刊誌の“書き手”と“データマン”のような関係

 正午さんが「東京駅の近くで人目につかないような喫茶店とかない?」って。あるわけないじゃないですか(笑)。それで東京駅や、その周辺のホテルや店を僕がロケハンして、11時に開店しているお店を探し回りました。「はやぶさ」の到着時刻の都合上、より雰囲気がぴったりのお店でも11時30分開店ではダメだったんです。新幹線の到着ホームは20番線としていたところ、直前のダイヤ改正で21番線に変わっていて、あわてて修正したりもしました。

 たとえば小山内の住んでいるところは、東京から日帰りで行き来できる場所なら新潟でも名古屋でもいいんです。でも、僕も正午さんも土地勘がない。「じゃあ八戸にしましょう」と。もう一人の主人公・三角哲彦のアルバイト先は、僕が学生時代に働いていたようなレンタルビデオ店の設定です。他の登場人物の背景も、僕の友人たちの仕事をいくつか挙げて、「この業界だったらきちんと詳しく話を聞くことができます」と一緒に検討して。

 そういう意味では、データマンとして集めて提供して、それをもとに正午さんが骨格を組み立てて、物語の中にうまくおさめていただいたという感じですね。

 高田馬場にあったレンタルビデオ店です。場所は、現在のTSUTAYA高田馬場店のすぐそば。早稲田通りから細い路地を入ったビルの地下で営業していた「アドベンチャー」というお店でした。』


<感想>
 細部のリアルさへのこだわり。職場の様子、東京駅からレンタルビデオ店まで、編集者がいろんなリアルを提供して作品になる。直木賞受賞、20万部、正に編集者冥利に尽きる。

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by tsuruichi1024 | 2017-08-11 08:00 | 月の満ち欠け | Comments(0)


【 月の満ち欠け 】


 2017/7/19、岩波書店の友人が編集した掲題書が直木賞を受賞した。以下は直木賞受賞会見より一部抜粋。(出所:
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170719-00010000-logmi-soci&p=1

『記者1:担当編集者と18年前に約束した話が、こうやって形になって、しかも直木賞という結果になりましたが、そのことに関してまずどうお感じになっていらっしゃいますでしょうか?

佐藤:うーん、なんかそういうめぐり合わせだったのかな、という感じです。

記者2:今回の作品ですが、いきなり東京駅からはじまって、八戸などに舞台を移しますが、実際に行かれたりしたのでしょうか?

佐藤:いや、えーっと佐世保からは出ずに書きました。出てないです。

記者4:今年でデビュー34年ということなんですが、この会見の席で難しいかもしれませんけれども、今までの34年というのをちょっと振り返っていただけないかな、と思いまして。

佐藤:あー、ちょっとそれは難しいですね。

(会場笑)

佐藤:34年(笑)。

記者4:じゃあどういうふうに仕事をしていらっしゃった、と言ったらいいでしょうか?

佐藤:なんか……マイペースで、編集者にご理解いただいて、いい編集者とめぐりあえて、マイペースを保って書いてこれた30何年間だったと思いますけど。』


<感想>
 祝、直木賞受賞!18年越しの約束。八戸出身の友人(高田馬場でバイト、石油会社勤務経験あり)からは、冒頭の東京駅絡みの写メをたくさん撮ったと聞いた。「編集者にご理解いただいて、いい編集者とめぐりあえて」。正に編集者冥利に尽きる。次回作も期待している。

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by tsuruichi1024 | 2017-07-21 08:00 | 月の満ち欠け | Comments(0)


【 「月の満ち欠け」(佐藤正午著、岩波書店)

 昨日、学生時代からの友人が編集した掲題書を読了した。
 以下は掲題書帯より。

『 欠けていた月が満ちるとき、喪われた愛が甦る。

 新たな代表作の誕生は、円熟の境に達した20年ぶりの書き下ろし。
 さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

 あなたを/の 愛している人は、誰ですか? 』

 以下は本文(12章)より。

『 万が一、自分が命を落とすようなことがあったら、もういちど生まれ変わる。月のように。いちど欠けた月がもういちど満ちるように。そしてあなたにサインを送る、そのサインに気づいたら、生まれ変わりを受け入れてほしいと彼女は言いました。受け入れる、とあたしは約束しました。そのときは、たぶんふたりともそんなことは万にひとつも起こらないと思って、約束したんです。でも、彼女が事故で亡くなった日から、十五年もの長いあいだ、あたしはサインを待つことになりました 』

<感想>
 友人が佐藤正午さんと二人三脚で取り組んだ作品。
 私自身、生まれ変わりのサインに気づかずにいるだけなのかもしれない・・・
 多くの人に本作を読んでもらうことを心より祈念している。


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by tsuruichi1024 | 2017-06-20 08:00 | 月の満ち欠け | Comments(0)