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【 新海誠:小説 言の葉の庭(その5) 】


 新海誠監督作品の中で一番好きな映画(2013年公開。46分)の小説版。


第8話 降らずとも、水底の部屋ーー秋月孝雄


 藤棚の下であの人に向き合ったまま、孝雄は言う。

  鳴神の すこし響みて 降らずとも 我は留まらん 妹し留めば


「・・・・・・そう。それが正解。私が最初にきみに言った歌の、返し歌」


「万葉集、だったんですね。教科書に載ってたのを、昨日見つけました」

 相聞歌、男女で贈りあう恋の歌だった。雨が降ったら、あなたはここに留まってくれるでしょうか。そういう女の歌に対して、きみが望むならば、雨なんて降らなくてもここにいるよ。そう男が答えている。俺は授業でこの歌を聞いたことがあったんだ。三ヵ月も経ってからようやく気づくなんてと孝雄は思わず自分で苦笑して、それから思いきって、あの人の名を呼んでみる。


「・・・・・・最初の日、きみの制服の校章を見て、同じ学校だって途中で気づいたの」

「だから、授業で習ったはずの歌を伝えれば、古典の教師だってきみに気づいてもらえるかなって思ったの。それに私、学校中の人に知られちゃってると思ってたから。・・・・・・でもきみは、私のこと、最初からずっと知らなかったんだよね」

「ーーきっときみは、違う世界ばっかり見てたのね」

「私たち、泳いで川を渡ってきたみたいね」

 部屋に入ると、雪野にすぐにシャワーを浴びるように言われた。

 雪野は孝雄の濡れたシャツを洗濯機に入れ、タオルで学生ズボンの水を吸い、どちらもアイロンをかけてくれた。


 今まで生きてきて、俺は、今が。

 今がいちばん、しあわせかもしれない。


 鳴神の しましす響もし 降らずとも 我は留まらむ 妹し留めば

状況:雨を理由に引きとどめようとした女性に対して、あなたがねがうのなら留まるという男性の歌。第2話の女性の唄に対する答えの歌。


<感想>
 雪野の部屋で、孝雄がオムライスを作り、雪野がとコーヒー淹れるシーン。
 エンディング間近の2人の世界が何ともせつない。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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by tsuruichi1024 | 2019-09-13 08:00 | 言の葉の庭 | Comments(0)