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【 「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 】


 以下は、「司馬遼太郎」で学ぶ日本史(磯田道史著、NHK出版新書)(「終章 二一世紀に生きる私たちへ」)からの一部抜粋。


『 最後に遺された言葉

 ここまで過去を清算したうえで、司馬さんは最後に、未来のことを考えた文章を私たちに書き遺してくれました。それが「二十一世紀に生きる君たちへ」というエッセイで、400字一枚の原稿用紙に換算して10枚ほどの短いものです。

 大阪書籍という教科書会社から「小学生の子どもたちにメッセージを書いてください」と依頼された司馬さんは、快く引き受けました。そして、膨大な時間をかけて執筆したそうです。そのなかで、司馬さんは「(自分は)二十一世紀というものを見ることができないにちがいない」と書かれましたが、読んだ私たち読者はとても驚きました。発表当時(1989年)、司馬さんはまだ60代半ばで、二一世紀までご健在だろうとみんなが思っていたからです。

 ところが、実際に司馬さんは二一世紀を迎える前に亡くなられ、この文章が読者に向けた遺言として位置付けられました。

 司馬さんが子どもたちに伝えたかった主旨は、おそらく日本人の最も優れた特徴である「共感性」を伸ばすことだったと思います。司馬さんのこの文章内の言葉で言えば「いたわり」です。他人の弱みを自分の痛みと感じること──どうしたら相手は辛いだろう、どうしたら相手は喜ぶだろうといった、相手を慮る心が日本人は非常に発達していることを司馬さんは指摘します。


 これからの世界は「おれが、おれが」と自分の意見や利益を口にするだけでは何も解決しない時代に入ると思います。現在の世界は、どちらが強いか、どちらの利益を優先するかばかりが議論されているように見えます。グローバル化がさらに進めば、異なる価値観を持つ国家や人間どうしが向き合わざるを得なくなる局面が増えてきます。

 相手よりいかに優位に立つかに汲々とするより、むしろ、相手の気持ちがわかる、共感性が高いといった、どんな文化の違う人にも適用し理解することができる能力が重要になるはずです。その共感性が高いのが日本人なのです。


  日本の歴史を動かしたのは誰か

 そして、司馬さんはもうひとつ、「自己の確立」が大事だと述べています。中世の鎌倉武士を例に挙げて、「たのもしい人格を持たねばならない」と言います。

 若き日の司馬さんが目にしたのは、国家が命令を下してみんなが「一億玉砕」を叫んで戦争に行く、付和雷同してついていく日本人の姿でした。しかし、自分の考えをしっかり持って行動する人間が日本の歴史を動かしてきたという事実を、司馬さんは小説に描き出したわけです。

 「二十一世紀に生きる君たちへ」の核心の部分を引きましょう。


 「もう一度繰り返そう。さきに私は自己を確立せよ、と言った。自分に厳しく、相手にはやさしく、とも言った。いたわりという言葉も使った。それらを訓練せよ、とも言った。それらを訓練することで、自己が確立されていくのである。そして、“たのもしい君たち”になっていくのである」


 司馬さんが歴史上で愛した人物は、坂本龍馬のように、周りがどうであれ、しっかりと自己を持って時代を動かした人たちでした。黒田官兵衛にしても、最初は豊臣秀吉に付き従っていましたが、秀吉が挑戦を攻めるにあたり、それが間違いであると思ったら、さっさと隠居して自分の道を歩みます。秋山真之も、自分がいるから日本の海軍と日本の安全は保てるのだと、一身でもって日本全体を背負うほどの覚悟を抱いていました。

 こうした「たのもしい」人物を司馬さんは愛し、その肖像を描いてきたのです。

 
  司馬遼太郎からの問いかけ

 司馬さんは、「二十一世紀に生きる君たちへ」の兄弟編とも言える「洪庵のたいまつ」というエッセイで、軍人でもなければ政治家でもない、英雄でもない一人の人物──緒方洪庵を紹介しています。

 自分が西洋の医学を学ぶばかりではなく、西洋の医学や言葉や考えを多くの弟子たちに教え、日本の明示を開くことにつなげた人物です。洪庵は、灯したたいまつの火をひとつずつ弟子へ──大村益次郎や福沢諭吉橋本佐内。大鳥圭介といった人たちへ移していきます。

 司馬さんは、真の愛国者というのは緒方洪庵のような人物だと思っていたにちがいありません。この国がうまくいくように、自分で考えて行動し、他人に共感性をもって、人の命を救うことに生涯をささげた人です。

 幕末の日本ではコレラがはやりました。コレラ治療に取り組む意思は、ひどいときは三人に一人、四人に一人が死んだとされます。治療にあたった洪庵は「事に望んで賤丈夫(心の卑しい男)となるなかれ」と言い、さらに「世のため、人のため」と常に口にして、掛け軸にも残しました。

 自分の「技術」を人の命を救うために使った人──。緒方洪庵は、自己を確立して、他人をいたわることのできる、非常に共感性の強い人物だったのです。「二十一世紀に生きる君たちもそうした人物になってほしい」。それが、何千、何万、何十万という人の人生を、日本を見つめた司馬遼太郎さんの結論だったのではないでしょうか。

 やはりあれだけ膨大な歴史の海を見続けると、人間や社会が幸せになる定石というか、法則がわかるのでしょう。共感性と自己の確立──この司馬さんの問いかけは、いま、私たちに、とても大切なものとして響いてきます。


<感想>
 グローバル社会における「共感性と自己の確立」。北朝鮮もこの二つを身に付けることが出来たなら、今日のような事態には至っていなかったに違いない。司馬遼太郎の遺作を読んでみたい。

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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by tsuruichi1024 | 2017-10-05 08:00 | 司馬遼太郎 | Comments(0)