「分断されるアメリカ」
サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社文庫)(その3)


<訳者あとがき>

 移民問題に関して、著者は人種主義ともとらえかねないほど忌憚なく自分の考えを述べる。だが客観的に読めば、彼の立場はきわめて明快だ。移民そのものに反対なのではなく、問題はアメリカ社会に移民が同化しないことなのだ。アメリカ人になるからには、それまでの国民性や母国への忠誠は捨て去り、アメリカの価値観と生活様式に順応し、英語を話すべきだ、と著者は論ずる。過去の移民はそうやってアメリカ社会に同化していったのであり、同化さえすれば、その人間の肌の色がどうであろうと同胞と見なされるのだ、と。

 ハンチントンはここでアメリカがかかえる大きな問題を浮き彫りにする。南フロリダや南西部のヒスパニック化である。これらの地域では、スペイン語を母語とし、いわゆるアメリカの文化には染まろうとしないヒスパニック系の人びとが急増しており、マイアミでは英語を話す一般のアメリカ人がマイノリティになってさえいる。とりわけ、陸つづきのメキシコから合法的ないし非合法的にじわじわと流入しつづけ、高い出生率ゆえにいっそう人口を増やしつづけるメキシコ移民に、著者は大きな不安を感じている。移民が各地に分散していれば、世代を経るにしたがって徐々にアメリカ社会に吸収されていく。だが移民が独自の社会を築き、そこへ新たな移民が流入しつづければ、巨大なスペイン語圏が形成されることになる。これらの移民は貧しく、教育程度の低い人が多いが、それでも彼らは安価な労働力を提供し、自らも消費者となり、いずれは選挙権を獲得するようになる。民主主義や消費経済においては、数こそ力である。しかも、これらの地域はつい150年ほど前までメキシコだった土地であり、彼らはそれを再征服(レコンキスタ)しているのだという。


<感想>
(その3)

 トランプ大統領のメキシコ国境の壁の建設。

 アメリカ社会に同化しないヒスパニック化への懸念の現れとも言えよう。


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by tsuruichi1024 | 2017-03-30 08:00 | 分断されるアメリカ | Comments(0)


「分断されるアメリカ」
(サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社文庫)(その2)


<訳者あとがき>(その2)

 
たとえば、「アメリカの信条」と呼ばれる、いわばアメリカのイデオロギーを奉ずることが、はたしてアメリカ人としての定義になるのだろうかという問題がある。アメリカがいまも世界中の多くの人を惹きつけるのは、一つには人種や民族とはかかわりなく、宗教的信条も問われることなく、誰でもアメリカ人はになりうるからだろう。だがこうしたイデオロギーは、もともとアメリカが同じ民族であるイギリスから独立するさいに、それを正当化する根拠としてもちだしたものだ、とハンチントンは指摘する。

 
リベラルな傾向が強く、グローバリゼーションを推進するエリートたちは、こうした信条による定義を好む。
だが、それがアメリカ例外論やアメリカを普遍的な国だとする主張につながり、民主主義やアメリカの文化を他国に押しつける帝国主義的志向へと発展した。それはまた、アメリカに毎年、何十万もの移民が押しかける状況も生みだし、その結果、この国は多文化がひしめきあう世界主義的な社会となり、国としての統一性が失われつつある。その一方で、アメリカの大多数を占める一般大衆はもっと保守的で、それぞれの地域社会に深く根ざしており、保護主義貿易的傾向をもつ。

 
イデオロギーは国民を一つにまとめる絆としては弱く、アメリカの信条だけでなく、文化や宗教という、理性では説明のつかない絆で結ばれなければ、国民としての結束をはかれないとも著者は言う。それは共産主義というイデオロギーだけで括られていたソ連があっさりと崩壊したことを考えればわかる、というハンチントンの主張は確かに的を射ているだろう。


<感想>(その2)

 
トランプは、イデオロギーではなく、一般大衆の持つ、保守的で、保護主義貿易的傾向に訴えたことによって、大統領になったとも言えよう。


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by tsuruichi1024 | 2017-03-29 08:00 | 分断されるアメリカ | Comments(0)


「分断されるアメリカ」(サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社文庫)(その1)


 2004年、アメリカを代表する国際経済学者である著者(2008年に逝去)により掲題書が発行された。

 トランプ政権発足の現在のアメリカを予言するような内容となっているのが興味深い。

 以下は「訳者あとがき」からの一部抜粋。


<訳者あとがき>(その1)

 著者サミュエル・ハンチントンは、『文明の衝突』で冷戦後の世界を衝撃的に予測したことで有名だが、本書ではその鋭い視点を自らの国アメリカに向けている。この本の原題は"WHO ARE WE? :The Challenges to American's National Identity"という。つまり、アメリカ人とは誰なのか、という国民の定義を問いかけるものだ。「われわれ」とは誰なのか、と改めて問い直さなければならないほどにアメリカの現在は変わりつつあるのだ。「われわれ」は誰かが定まらなければ、国の進むべき方向も決まらない。

 日本のようにほぼ同質の人で構成され、他の国々からは海によって隔てられ、ことさら努力しなくても統一されている国とは異なり、アメリカは目的をもって意図的に建設された国であり、存続するためにはつねに明確な方向性と正統性を必要とする。内外のさまざまな要因によって国が大きく変化しているいま、祖先が築いてきた国を守りたいという気持ちを人一倍強くもつハンチントンが、国の行く末を案じ、今後進むべき方向を見定めようとするのは無理からぬことだろう。著者の提起する問題は多岐にわたっていて、実に興味深い。


<感想>(その1)

 2001年の9.11の悲劇的事件により、アメリカ人は国に対して強い帰属意識(ナショナル・アイデンティティ)を抱き始めた所から本書は始まっている。

 トランプは、「アメリカ・ファースト」を旗印としたナショナル・アイデンティティに訴えることによって、大統領になったとも言えよう。

 明日以降も本書を取り上げて行きたい。

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by tsuruichi1024 | 2017-03-28 08:00 | 分断されるアメリカ | Comments(0)